なんとなくベクレル

1.半減期と崩壊速度(ベクレル)

 放射性物質の半減期と放射能の基本について考えてみた。

 放射性物質の半減期の代わりに、1/eになる時間(いわゆる、時定数、寿命)τを考えると、
 ある時刻tにおける(時刻t=0に対する)比放射能(比放射線強度)は、exp(ーt/τ)だから
半減期を t(1/2) として、
 exp(-t(1/2)/τ)=1/2
より、
 t(1/2)/τ=ln2
  あるいは、 t(1/2)=τln2 、または τ=t(1/2)/ln2
但し、ln2≒0.693、1/ln2≒1.4427

 放射性物質の原子数Wで考えると、
t=0における放射性物質のモル数をN0、アボガドロ数をAとして、
t=0における放射性物質の原子数W0は、

 W0=A・N0

これが指数関数で減少するから、時定数τとして、時刻tにおける原子数Wtは、

 Wt=W0・exp(-t/τ)

上式を微分すると、単位時間あたりの原子崩壊数(いわゆるベクレル:Bq)となり、

 W't=-W0/τ・exp(-t/τ)

t=0において、
 W'0=-W0/τ

 すなわち、最初の瞬間における原子崩壊速度は、その放射性物質の全量が時定数で無くなる速度になる
 あるいは、半減期で言い換えると、
最初の瞬間における原子崩壊速度は、その放射性物質の全量が半減期の五割り増し弱(1.4427倍)で無くなる速度になる。

 ベクレルは、崩壊個数/秒だから、ベクレル値が与えられたとき、秒に換算した時定数をかければ、放射性物質の(原子個数としての)全量が得られる
(これをアボガドロ数Aで割って原子量を掛ければ放射性物質の質量となる)


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2.カリウム40による体内被曝線量

 半減期12.77億年のカリウム40による体内線量を見積もってみる。

時定数τは、
τ=1.277x10^9x365.25x24x60x60/0.693≒5.81x10^16(秒)

平均原子量39.1のカリウム1gに含まれるカリウム40のパーセントは、0.0117%だから、そのモル数N0は、

N0=1/39.1x0.0117/100=2.99x10^-6

崩壊速度W'は、

W’=A・N0/τ=6.02x10^23x2.99x10^-6/5.81x10^16≒3.09x10^1≒31

これは1秒あたりの崩壊数だから、そのままカリウム1gのベクレルとなる。
成人で体内には200g程度のカリウムがあるそうだから、体内放射線量は6000ベクレル程度となる。


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3.ヨウ素131の場合

今話題の、ヨウ素131(半減期8日)だと、1ベクレルあたり、

  1 x 8 x 24 x 3600 x 1.4427=997194.24≒10^6

約100万個のヨウ素131原子が存在し、

  10^6/6.02 x 10^23 x 131=1.66 x 10^-18 x 131=2.17x10^-16(グラム)

の質量となる。

 10000ベクレルのオーダでも、10^-12グラム程度で、ppt(1兆分の一)のオーダ、
キログラムあたりにすればその更に1000分の一

 仮に、10000ベクレルが持続した場合の被曝線量を見積もると、
ヨウ素131の崩壊エネルギーは約1MeVだから、素電荷1.6x10^-19(C)より

  1.6x10^-19 x 10^6 x 10^4=1.6x10^-9(J/秒)

1時間値に変換して、

  1.6x10^-9 x 3600=5.76x10^-6=5.76(μグレイ/h)

 ガンマ線、ベータ線の生体影響係数は1なので、これはそのままシーベルトになる。

 10000ベクレルのヨウ素131を取り込んだ人体への内部被爆の総計は、新たな取り込みや排出がないとして、ヨウ素131の崩壊時定数(時間単位)を掛ければ、

  5.76 x 24 x 8 x 1.4427=1595.51μSv≒1.6mSv(ミリシーベルト)

 これは年間被曝線量(2.4mSv)に比べれば無視できない大きさだが、甲状腺集中がないとして一時被爆の目安値(100mSvとか250mSv)に比べれば、確かに影響のない大きさかもしれない。



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4.総放出量

(2011年3月25日3時0分 asahi.com)によると、

 原子力安全委員会は、SPEEDI(スピーディ)(緊急時迅速放射能影響予測)システムで放射能の広がりを計算するため、各地での放射線測定値をもとに、同原発からの1時間あたりの放射性ヨウ素の放出率を推定した。事故発生直後の12日午前6時から24日午前0時までの放出量を単純計算すると、3万~11万テラベクレル(テラは1兆倍)になる。


 上記記事から、放射性物質の放出量をとりあえず10万テラベクレル(10^17Bq)として、全量ヨウ素131とすると、
上記で計算の通り、1ベクレルあたりのヨウ素131の質量は、2.17x10^-16(グラム)だから、その10^17倍で、
21.7グラムほどの放射性ヨウ素が漏出したことになる。(約1/6モル)


 また別の観点から、今回の事故における放射能の総排出量を見積もってみると、
放射性物質の拡散の前提メカニズムは不明ではあるが、
例えば3/21の降雨時に観測された下記の測定値より、約30000ベクレル/平米(Bq/m2)を一つの手がかりとして考えてみる。

(観測期間) 131-I 137-Cs 天候
2011/03/21 9:00 - 2011/03/22 9:00 32300 5300 雨
2011/03/22 9:00 - 2011/03/23 9:00 35700 335 雨
2011/03/23 9:00 - 2011/03/24 9:00 12790 155 雨

半径200km圏内に、この1月間(30日)継続してこの程度の放射能が均一に放出されていると仮定すると

3・(200・10^3)^2・30000・30≒12・10^16Bq

結構良い線行っている!
但し、上記の計算の前提とした仮定は、かなり矛盾も含んでるのであくまで目安に過ぎない
(例えば、空間的な前提である、半径200km圏内均一分布の仮定は、遠方ほど薄まるという拡散の効果を全く無視しているし、降雨で空中の放射性物質が全量降下したとも限らないし、
 1月間(30日)継続という時間的な仮定についても、実質的な放出のピークは3月15日前後の数日間のはずで、その後は例えばヨウ素131なら8日間の半減期で減衰しているはずだから、セシウムの寄与を除けば3/21の降雨時の測定値はほぼ放出量の半分に近い値のはずである。
 ただこの手の見積もりで良くあることだが、いろいろな仮定を積み重ねるうちに過大な見積もり要因と過小評価の要因がある程度相殺して、もっともらしい値になっているのではないかと思われる。)


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5.ベクレル考

 しかし、つくづくベクレルというのは「1崩壊毎秒」(要するにガイガーカウンターの1カウント/秒)と概念は単純明快であるが、原子単位に数えてるので、なんとも数値がインフレでおおざっぱな気がする。
 原子一個単位なので、日常的な質量などに換算するにはいわゆるアボガドロ数(アボカドではない、6・10^23(約1兆のそのまた約1兆倍!)が絡んできて、
 J/kgで定義されるグレイ、シーベルトがμ(マイクロ、10^-6)や、m(ミリ、10^-3)で扱うことが多いのに対し、
ベクレルのほうは、万とか、キロ(10^3)、メガ(10^6)ギガ(10^9)、テラ(10^12)で表現されることが多い、
致し方ないが、まったくもってハイパーインフレなことである。
 考えてみれば10万テラベクレルなんてのも、センスのない言い方で、100ペタ(10^15)ベクレルと言うのが正しいのだろうが、一般にはピンと来ないだろうからしょうがないのかも(テラベクレルでも大同小異だが)

 昔聞いたたとえ話で、太平洋にコップ一杯の水を注いで、良くかき混ぜて再度コップに海水を取ると、最初注いだ水分子が何個か入ってるというのがあった。
 計算してみると、理科事典によれば、太平洋の面積は165・10^6km^3、平均水深が4.28kmで、海水の体積は、約7x10^8km^3、
海水の密度も水と同じとして、1km^3の水のグラム数は10^9・10^6=10^15グラムだから、重さにして7x10^23グラム、

コップ1杯100ccとして、100グラムだから、注いでかき混ぜた後同量の海水をすくうと元の水分子が含まれる確率は、海水の増分は無視(!)して、100/(7x10^23)

100グラムの水に含まれる水分子の数は、
(100/18)x6x10^23

これを掛け合わせると、10^23が丁度キャンセルして、60000/(18・7)=476(個)

計算する前は数個程度かと思っていたが、500個近いとは結構一杯入ってるものだ

 もしコップ一杯の水が全量放射性物質としたら、現実的(!)な仮定として例えば100グラムの水の代わりに100グラムのヨウ素131(約458ペタベクレル)を注いだとして、
混ぜた後すくった海水100グラムには65個ほどのヨウ素131原子が含まれる計算になる(65マイクロベクレル!)
 海水1キログラムすくったとしてもこの10倍で、0.65ミリベクレル、素人の独断だが、1崩壊毎秒というベクレルの定義の量子性からして、このレベルの放射能の検出はよほど大量のサンプルを長期間測定すれば不可能ではないかもしれないが、通常バックグランドに埋もれて、誤差の範囲ではなかろうか?
(要するに、ガイガーカウンターのカウントがまばらなので、有効桁数を確保するほどのカウント値を得るには、大量のサンプルを長期間に渡って測定する必要があるということ)
 ただ、この計算の仮定には落とし穴があって、海水は太平洋全体にそう簡単には均一に拡散しないと思われる(例えば水深方向の海水の攪拌には海流の巡回を何度も繰り返す必要があり、1000年単位の時間を要する(要出典))ので、実際にペタベクレルオーダの放出があれば、放射性物質の半減期による減衰を考えなければ相当長期間にわたって追跡は可能ではないかと思われる。
(今回の福島第1原発の低濃度汚染水の放出は、総量で数十~数百ギガベクレルのオーダらしいので、部分的にせよ速やかに拡散すれば近傍でも相対的には問題ないレベルと判断されたのではないか?)

 そもそも原子(核)単位の崩壊反応が1個単位で測定可能というのは、崩壊反応で生成されるガンマ線などのエネルギーが百万エレクトロンボルト(MeV)単位であるからなので、やっぱりそこが原子力の威力ということであろう。
(通常の化学反応では、1分子の反応で生成されるエネルギーは、一桁のエレクトロンボルト(eV)単位で、生成される光子(フォトン)を1個単位で計測するのは(不可能ではないが)難しい)









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